くちびるにトウガラシ:韓国の本、書店、美術、博物館、映画
2023-12-06T23:06:33+09:00
atougarashi
ぺちこです。SHINeeが大好きなジョンペンです。韓国留学のこと、韓国のことなど書いています。pechikosec@yahoo.co.jp
Excite Blog
勇敢さに拍手を。追跡団火花「n番部屋を燃やし尽くせ」
http://ayanohibi.exblog.jp/30506973/
2023-12-06T23:06:00+09:00
2023-12-06T23:06:33+09:00
2023-12-06T23:06:33+09:00
atougarashi
韓国の本、書店、美術、博物館、映画
「n番部屋事件」の話題がSNSなどで
盛んに出ていた頃、この事件を追跡しているのが
「追跡団火花」という人たちだと知りました。
韓国の社会問題やニュースに関心のある人は
この事件のことをよくご存知だと思います。
おそらくゾッとするような気持ちで
この事件の記事を読んでいたことと思います。
日本でもこの事件は少し報道されていましたね。
この事件が発覚する前だったか
芸能人が多数関与していた「バーニング・サン事件」があり
こちらの方が日本では大きく報道されたような印象があります。
秘匿性の高いチャットアプリを使った
デジタル性犯罪「n番部屋事件」は
脅迫された未成年者の動画などが流通するという事件です。
そしてその事件を追跡したのが、「追跡団火花」という
「プル」と「タン」というふたりの女子大学生でした。
「n番部屋を燃やし尽くせ」はその記録です。
記者志望の彼女たちが就職に役立ちそうな受賞歴を得るため
コンクールに応募しようと、「盗撮問題」をテーマに調査を始め
この「n番部屋」の存在に気づきます。
警察と連携しながら実態を暴き、犯人逮捕に繋げていく過程と
事件を知るほどにふたりが負ってしまう心の傷や
フェミニズムに関心を持つようになったきっかけ
ミソジニー事件や性差別などについて
自分たちの経験や考えを踏まえながら書かれています。
被害の細部を事細かく描き、刺激的に記録した本ではありません。
でも彼女たちが事件を追う過程で苦しむ様子で
事件がいかに酷かったのかが想像できます。
被害者に寄り添い、配慮したルポだなと感じました。
読む側にもかなり負担というか、心が重たくなるしムカつくし
何度か中断しつつも、追跡団火花の強い意志に
敬意を持ちながらページをめくりました。
全体が三部構成になっており
一部では追跡団火花が事件を調査していく様子
二部では、プルとタンについて
三部は韓国の社会改革の流れ
巻末には用語の解説などもあります。
二部に彼女たち自身の話があることで
韓国の女性たちを取り巻く社会環境が
よりリアルに感じられました。
読んでいて思い出したのが
「私のIDはカンナム美人」という韓国ドラマです。
このドラマの中で主人公やその友達が男子学生に
執拗に外見をいじられたり、短いスカートの服を着させられ
それに対して女子学生たちが怒りを表すシーンがありました。
このシーンに似た話が本の中にも書かれていました。
ミソジニー、性差別、デートDV…。
現実社会のあちこちでこういったことが起きていて
それは韓国だけの話ではありません。
そしてこの「n番部屋事件」は女性が被害者であったけれど
男性が被害者になるケースもありえると思っています。
若い彼女たちがこういった同じ女性たちが被害者である事件に
切り込んでいったことは、本当にすごいことだと思います。
強い信念を持って立ち向かう姿に拍手を送りたい気持ちと
簡単には癒えないだろう心の傷への心配でいっぱいです。
そして被害者の女性たちが、少しでも未来に希望を持って
今を生きていることを願わずにはいられません。
考えさせられる一冊です。
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大満足!「K-BOOK フェスティバル 2023」で購入した本
http://ayanohibi.exblog.jp/30500174/
2023-11-27T16:51:00+09:00
2023-11-27T16:51:17+09:00
2023-11-27T16:51:17+09:00
atougarashi
韓国の本、書店、美術、博物館、映画
日曜日に「K-BOOK フェスティバル」へ行ってきました。
この日のために書店断ちしてました…。
「K-BOOK フェスティバル」は年に一度
神保町で開かれる韓国文学のイベントです。
韓国文学を出版するさまざまな出版社が参加し
直接本を購入できるだけでなく
著者を招いたイベントなども行われます。
翻訳本だけでなく、韓国語書籍、韓国語の教材、絵本、雑貨などもあり
本好きにはたまらないイベントです。
わたしはコロナ前に来たことがありますが
今年はその時よりもかなりパワーアップした印象です。
お客さんの数もはるかに多かった感じ。
大好きな出版社「亜紀書房」さんと「書肆侃侃房」さんも
参加されていました。
好きな作家や興味がわく本がたまたまこの二社から
出版されていることが多いのですが
手に取るたびに、本の隅々にまで
作り手の愛情が行き渡っているなぁと感じるのです。
ずっと応援している出版社さんです。
今回購入した本はこの4冊です。
「唾がたまる」キム・エラン著 古川綾子訳(亜紀書房)
「小さな町」ソン・ボミ著 橋本智保訳(書肆侃侃房)
「奥歯を噛みしめる」キム・ソヨン著 姜信子監訳 奥歯翻訳委員会訳(かたばみ書房)
「引き出しに夕方をしまっておいた」ハン・ガン著 斉藤真理子訳(クオン)
改めて見てみるとオールスターって感じのラインナップですね。
著者も翻訳者もオールスターで眩しすぎ…。
そしていただいたものがこちら。
実は「雨が降る日は入口が開く」のことをSNSで見て
これほしい!どこでもらえるんだろう…と。
でも考えてみたら無料でこんな…太っ腹すぎませんか…。
しおりも厚手の作りでありがたい。勉強用しおりにします。
そして毎号楽しい「ちぇっくCHECK」も嬉しい。
毎回すごい情報量にびっくりするのですが
これ読むとさらに読みたい本が増えるんですよね…。
出版社さんの冊子もいただきました。
岩波書店さんの「図書」と筑摩書房さんの「ちくま」です。
どちらも豪華な内容で…。表紙もすごい。びっくりした…。
そして今回は素敵な雑貨も購入しました。
ドリップバッグの中を開けると、なんとしおりなのです。
裏も可愛い!
まだまだ読みたい本も、読み直したい本もたくさんあって
頭が追いつかない感じですが、今回の本は年末年始本として
ちょっと寝かせておきます。
今「n番部屋を燃やし尽くせ」を読んでいるのですが
こちらもなかなか重たい内容です。
この本もイベントで販売されていました。
大満足のK-BOOK フェスティバルでした。
普段出版社の方とお話することもないので
直接「この本よかったです」と伝えられるのは
読者としてはとても嬉しいことでした。
単なる購入の場ではなくて
愛情を伝えられる素敵な場所だなと思います。
会場で見て「あ、もう一度読み直そう」と思う本もあったり。
楽しい時間でした。
また来年が楽しみです!
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ホン・サンス監督の「小説家の映画」を見る
http://ayanohibi.exblog.jp/30396275/
2023-07-21T17:36:00+09:00
2023-07-21T17:36:43+09:00
2023-07-21T17:36:43+09:00
atougarashi
韓国の本、書店、美術、博物館、映画
ホン・サンス監督の
「小説家の映画(原題:소설가의 영화)」を見てきました。
前回の「逃げた女」同様、終演後にはみんな
作品に関する記事が貼ってあるボードに集まっていました。
どゆこと!?みたいな気分なのでしょうね…。
ざっくりしたあらすじですが
執筆をやめてしまった著名な小説家・ジュニが
ソウルから離れた街で書店を営む後輩を訪ねるところから
物語は始まります。その後、訪れたユニオンタワーでは
偶然、知人の映画監督とその妻と再会、一緒に近くの公園を散歩していると
ジュニと同じように仕事から遠ざかっている女優のギルスと出会います。
そしてギルスとその夫を主人公とした映画を作ろうと約束をし…。
会話劇というのでしょうか。
これという事件が起こるわけではなく…。
公園やユニオンタワーなどが出てきますが
単なる舞台としてそこが出てくるだけ。
もういっそ書店が舞台で、そこに数々の登場人物が
訪れてくるってパターンでも成立しそうな気もするくらいです。
何も起こらないし、言ってしまえば退屈かもしれない。
ずっと人の話を聞いているだけという感じなのだけど
登場人物たちの間に漂う「不穏」の描き方といい
大きな流れからそっと離脱したかのような人たちの
「ひっそりしたい」気分のようなものや
ふいのズームとか、見終わった後にも消えない映画の匂い。
そのどれにもひかれる。
いいぞいいぞ、ホン・サンス監督!と思いながら見ていました。
登場する人物たちの関係性もなんだか不思議。
ちょっとハラハラしちゃうような感じ。
どこか不安定な台の上に乗っているような気分です。
あと色の存在感ってすごいな、と思いました。
そしてポスターにもなっている印象的なシーン。
この作品を見た人とあれこれ話したい…。
何かの事件が起きて、物語がどんな方向にせよ動いていき
明確な答えが最後に出ないと嫌だ、という人には
あまり向かない作品だろうと思います。
そしてとにかく会話なので、韓国語学習者には
とても勉強になるという…。
ホン・サンス監督の作品は、見終わって数日後に
じわじわと効いてくる感じがします。
「逃げた女」を見た時がそうでした。
ふとした瞬間に映画の場面を思い出したり、あの空気を恋しがっている自分がいる。
そして次の作品が完成した時は絶対見に行こうと思っていました。
なんなら過去作品を全部見てみたい。
一度心を掴まれたら、なかなか離してはくれない監督です。
パンフレットには監督と、出演者でありパートナーでもある
女優のキム・ミニさんへのインタビューもありました。
なるほど、と思うところもあったりして…。
次はどんな作品かな、楽しみ!
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詩、散歩、冬が好きなひとはぜひ。ハン・ジョンウォンさんの「詩と散策」
http://ayanohibi.exblog.jp/30289947/
2023-04-06T19:41:00+09:00
2023-10-24T08:55:07+09:00
2023-04-06T19:41:17+09:00
atougarashi
韓国の本、書店、美術、博物館、映画
面白そうな本との出会いは
SNSや書評などがきっかけのことも多いですが
特に目的なく書店をうろうろしている時に
タイトルや表紙にひかれて手にした本をめくってみて
読みたい!と購入することも多いです。
そんな一冊が、ハン・ジョンウォンさんの「詩と散策」です。
幻想的で美しい表紙とタイトルは目を引きました。
出版社は「書肆侃侃房」さん。納得。
わたしが迷わず購入する出版社のひとつです。
訳は橋本智保さん。「レモン」などを訳された方ですね。
帯を外すと一枚の絵のよう。
装画は日下明さん。装丁は成原亜美さん。
日下さんのイラストは便箋などにもなっています。
この本は韓国の「시간의 흐름(時間の流れ)」という
これまた素敵な名前の出版社から
「말들의 흐름(言葉の流れ)」シリーズとして出版されています。
このシリーズ、タイトルがどれも「◯◯と△△」となっていて
その次の本は「△△と□□」と前の著者のタイトル後半部分を
次の著者が引き継ぐことになっているのです。
「詩と散策」の次は「散策と恋愛」です。内容が気になります。
「詩と散策」はシリーズ中の第四弾で
韓国のサイト「アラジン」を見てみると
現在は第九弾まで出版されているようです。
「詩と散策」、わたしは詩も散策もどちらも好き。
ページをめくると、ハン・ジョンウォンさんはさらに冬も好き、わたしも好き。
この本はわたしと絶対に相性がいいはず。しかも侃侃房さんだし。
そう思って購入して大正解でした。
冬の中で著者が考えたこと、見たことが
丁寧に綴られたエッセイで、章ごとにさまざまな詩が引用されています。
この本を読んでいる間中、雪の日にいるような気分になりました。
窓の外では静かに雪が降り続いている日に
暖かな部屋で読んでいるような感覚です。
余計な音が遮断されて、しんとした空間。
「いくつかの丘と、一点の雲」という章に
著者の思う「散歩」について書かれているのですが
100%共感です。この章、大好きです。
「散歩者は歩くとき、自分の”体”より”体ではないものに目を向ける”」という一文があり
本当にそうですよね、と思いました。
この章で引用されているのがウォレス・スティーブンスという詩人の
「部屋の中にいるとき世界は私の理解を超えている。
しかし歩くときの世界は、いくつかの丘と、一点の雲でできているのだということがわかる」という文。
こういう文を知っていること、これを引用して素晴らしい文が書けるということ
ハン・ジョンウォンさんのファンにならずにはいられません。
この本の中で引用されている詩、ほとんど知りませんでしたが
「読みたいな」と思う詩がいくつかありました。
このシリーズのタイトルがしりとりになっているのと同じように
わたしも本から本へ、詩から詩へ、流れていくようです。
どこへ流れ着くのか楽しみです。
季節はすっかり春だけれど
冬にもう一度この本を読みたいです。
できれば雪の降る日、森の中の家で読みたいです。
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大人な韓国旅行のお供にぴったりな本「韓国 美・味 案内 -한국은 아름다워요」
http://ayanohibi.exblog.jp/30271817/
2023-03-15T20:45:00+09:00
2023-03-15T20:45:23+09:00
2023-03-15T20:45:23+09:00
atougarashi
韓国の本、書店、美術、博物館、映画
久しぶりに素敵なソウル案内の本に出会いました。
「韓国 美・味 案内 -한국은 아름다워요」という
韓国料理家でありコーディネーターの崔智恩さんが
お書きになった本です。
きれいな装丁だなと思ったら
アノニマ・スタジオさんから出版されていました。
なら間違いない!と即決で購入です。
アノニマ・スタジオさんの本は
内容はもちろんいいのですが、装丁や本の隅々までに
その本の気配のようなものが行き渡っていて
とても素敵な本が多い印象です。
本にはさまれている「アノニマだより」も楽しみ。
「韓国 美・味 案内 -한국은 아름다워요」は
落ち着いた内容の本で、市場などの賑わう場所の紹介もありますが
韓国の伝統文化が好きな方や、いいものをじっくり探したいという方には
ぴったりな内容でした。読んでいるだけで、ソウルへ行きたくなります。
実用的な案内本でありながら、読み物としても素晴らしい一冊です。
大好きな骨董街「踏十里」や、チョン・ソヨンさんの「食器匠」さんも
紹介されていました。よかった、コロナでどうにかなっていたら…と心配でした…。
チョン・ソヨンさんのお店、大好きで何度もうかがいました。
高価なものもありますが、日常使いしやすく
お値段も手頃なものもたくさんあるので
白磁や青磁が好きな方にはおすすめです。
本の中で紹介されているお店、知らないところが多くて
次の旅がさらに楽しみになりました。
お料理の写真もおいしそうで
炭火で焼くお肉の香りが漂ってきそう。
もうカフェ巡りとか流行りスポットをまわるより
好きな場所に好きなだけいる、みたいな旅がいいなぁと…。
昔は1日に詰め込めるだけ詰め込んでも大丈夫でしたが
もうそんなスケジュールをこなす自信ゼロです…。
今思い返しても一番トンデモスケジュールだったな、というのは
羽田→ソウル着→大学路(だったかな)でミュージカル鑑賞→春川でコンサート見る→バスで明洞に戻る
というのでした。もうできません…。
というわけで、次回の旅といっても未定ですが
この本を持っていくことになりそうです。
他社さんの本ですが、今までで一番読んだ
韓国案内の本は平井かずみさんの「ソウル案内」です。
だいぶボロボロですね…。
ソウルに行く時には常に持って行った本です。
こちらの本がお好きな方なら、絶対に気に入る本だと思います。
ただこの「ソウル案内」の情報はだいぶ時間が経っているので
インスタグラムなどで現在の状況を調べてからの訪問をおすすめします。
なにしろお店の移り変わりが激しい韓国なので…。
素敵な本と出会えて嬉しいです。
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韓国文学と背景にある出来事について知る、斉藤真理子さんの「韓国文学の中心にあるもの」
http://ayanohibi.exblog.jp/30209383/
2022-12-29T22:18:00+09:00
2022-12-29T22:18:03+09:00
2022-12-29T22:18:03+09:00
atougarashi
韓国の本、書店、美術、博物館、映画
韓国の近現代史と小説に関心のある人は
おそらく「こんな本が読みたかった!」と思うかもしれません。
韓国の小説の翻訳などでお馴染みの斉藤真理子さんの
「韓国文学の中心にあるもの」はわたしにとってど真ん中の本でした。
韓国の小説を読んでいると
分断、解放、民主化運動、IMF通貨危機、セウォル号、フェミニズムなど
「避けて通ることができない出来事」にぶちあたることが多いです。
わたしは年表を作って、時々その年表を見たり
「韓国歴史地図」という本をめくったり
ネットで調べながら小説を読むことも多いのですが
その感情だったり、空気みたいなものを
理解しづらいこともしばしばあります。
「韓国文学の中心にあるもの」は
韓国の近現代に起きた様々な出来事の背景と共に
それに関する小説などを、斉藤さんが紹介、解説してくれている本です。
翻訳されながら考えたことなど、翻訳者ならではの視点なので
わたしたち読み手も、韓国文学を外側から眺めるというよりも
内側から一緒に見つめる感覚になれるのもよかったです。
巻末の年表や、それぞれの章で取り上げた本のリストも
とてもありがたく、助けになります。
この本は韓国文学が主役で、韓国文学から
その歴史を見るという点がすごく面白いし新鮮です。
読んだことのある小説がいくつか出てきて
そういうことだったんだな、と
内容への理解がもう一歩深まる感じです。
読んでいない本もたくさん出てくるので
読みたい、読まなくては!と焦る気持ちも出てきましたが…。
何より韓国近現代の大きな出来事を
わかりやすく理解できるというのは
韓国文学を読むにあたって、とても重要な体験ではないでしょうか。
歴史の本で知るより、小説を通して知る方が
生々しく、衝撃的なこともあります。
この本の中で取り上げられている、民主化運動を描いた
「少年が来る」はまさにそんな小説だと思います。
わたしはあの本を読んで数日、光州事件が夢にまで出てきたほどで
夢とはいえ、それはとても恐ろしいものでした。
「韓国文学の中心にあるもの」が発売されて
わりとすぐに購入していたのですが
積読本が多すぎて、読み始めたのはしばらくたってからでした。
いざ読み始めたらあまりにも面白いので、出かける時にも持って行きました。
なのでちょっとぼろっとなってしまい…。
ボリュームが結構あるし、取り上げられている出来事は
どれもずっしりと重いものばかりです。
でも読みながら本を読みたくなるという
不思議な魅力に満ちた本です。
まだまだ読みたい、理解したい本があるというのは
幸せな欲望だなぁとつくづく思いました。
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搾取される人々と搾取する人々、迫力のルポ「搾取都市、ソウル」
http://ayanohibi.exblog.jp/30195411/
2022-12-12T20:58:00+09:00
2022-12-12T20:58:58+09:00
2022-12-12T20:58:58+09:00
atougarashi
韓国の本、書店、美術、博物館、映画
電車の中で読んでいて
何度か降り損ねそうになるくらい
引き込まれた本でした。
「搾取都市、ソウル(原題:착취도시,서울)」は
韓国日報の記者、イ・ヘミさんが「チョッパン」に住む人々や
彼らを取り巻く人々について取材を重ねたルポルタージュで
「中くらいの友だち」を主宰する、伊東順子さんが翻訳をされています。
カバーをとると、ソウルの地図がデザインされています。
「チョッパン」というのは聞きなれない言葉かもしれませんが
韓国語で書くと「쪽방」で、「細かくわけた部屋、小部屋」というような
意味となり、貧困層が住む最底辺の住宅のことを指しています。
ひとつの部屋を、さらに多くの人が住めるようにわけ
極狭の家を作り上げる。
韓国の家では当たり前のようにある、床暖房「オンドル」すら
満足に使えず、衛生環境も安全面も悪い家。
そしてそこに住むしかない貧困層と
チョッパンの持ち主である富裕層たち。
どういった経緯でそこに暮らすことになり
なぜ富裕層たちはチョッパンを持つのか。
第一部はチョッパンに暮らす老人たちのルポ。
第二部は「新チョッパン」と呼ばれる、大学周辺のワンルーム住宅街で起きている
違法に分割改造された部屋で暮らす学生たちのルポ。
新聞記者のイ・ヘミさんのルポは、思わず本を持つ手に力が入り
前のめりになってしまうような迫力のあるものでした。
韓国ドラマを見たり、実際に韓国で生活したことのある方なら
半地下、屋上の部屋、考試院(コシウォン)という住宅があることを
ご存知の方も多いと思います。
映画「パラサイト」やドラマなどに出てくることも多い半地下の家や
ドラマ内ではちょっとおしゃれに描かれがちだけど、違法建築も多い屋上の部屋
かつては司法試験勉強のための部屋として作られたコシウォン。
家賃が安い代わりに住宅環境としては問題も多く
火災や水害の被害を受けて社会問題となりがちな住まいです。
それよりも酷いチョッパンという住まい。
イ・ヘミさんが取材する中で出会った、チョッパン暮らしのひとりが
「生きているだけで罰を与えられているみたいだ」ともらす場面や
ソウルに暮らす学生たちの過酷な家探しの現実など
キラキラしたソウルしか知らない人には衝撃かもしれません。
韓国の家賃制度は独特で、初期費用がかなり大きくのしかかるため
日本よりも納得いく住まいを探すことは難しいように思います。
伊東順子さんの解説もすごく興味深く
韓国の住宅事情や、若年層の住居貧困について
わかりやすくまとめてあります。
常にレースの只中にいる。
韓国は、特に韓国の若者にはそんなイメージがあります。
一度そのレースから降りてしまうと、一瞬にして暗転しそうで
常に一定のペースを保ち、エンジンを燃やし続けないといけない。
だからこそ大きな発展があるのだろうと思います。
でもそれは残酷で過酷なレースなのではないか。
そもそもスタートから大きく出遅れた人たちは
どうすればいいのか。結局お金なのか。
考えさせられる本でした。
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読めば歩きたくる!ページをめくればそこはソウル。大瀬留美子さんの「ソウルおとなの社会見学」
http://ayanohibi.exblog.jp/30143942/
2022-10-13T19:34:00+09:00
2022-10-13T19:35:00+09:00
2022-10-13T19:35:00+09:00
atougarashi
韓国の本、書店、美術、博物館、映画
雑誌「中くらいの友だち」で
毎回ソウルのさまざまな街を
魅力的な文で紹介してくださっている
大瀬留美子さんの「ソウルおとなの社会見学」を購入しました。
表紙を見るだけで、今すぐソウルの街を
隅々まで歩きたくなる、素敵な本です。
留学中に街歩きや、地方への旅をご一緒させて頂き
わたしの韓国への興味を刺激してくださった方でもあります。
ソウルの街や通り、そこにひそむ歴史や文化に
興味のある人であれば絶対に楽しめる本です。
わたしが大好きな場所、行きたいと思いながら未訪問の場所
そんなところがあったんだ!と知らずにいた場所…。
本当にたくさんの場所がこの一冊にぎゅっと詰め込まれていて
今すぐ飛んで行きたくなりました。
次回の渡韓のために、グーグルマップに印をつけながら読んでいます。
ソウルのおしゃれで、最先端のスポットも
確かに楽しいけれど、それだけで終わるのは
とてももったいない街だと思います。
大瀬さんも本の冒頭部分で
「興味を持たなければ通り過ぎてしまうテーマを詰め込んだ」と
お書きになっていますが、この本を通して
いつもとちょっと視点を変えてソウルの街をのぞいてみると
次の渡韓の時には、新たな楽しみが増えることと思います。
大瀬さんは街の細かいところ
周囲とちょっと違っている些細な部分に
本当によく気づかれる方だなと思います。
街の方が大瀬さんに「気づいて!」って言っているみたい。
ソウルに限らず、今自分の住んでいる街や
いつも通っている道も、ちょっと視点を変えるだけで
初めて気づくことがたくさんあって
そういう楽しみを大事にしながら過ごしたいです。
そうそう、「ブルータス」のドーナツ特集の
ソウルのページも大瀬さんがお書きになっていて
こちらも楽しく読ませて頂きました。
友だちに連れて行ってもらった「OLD FERRY DONUT」さんが出ていて
飲み物にふたのようにドーナツがのっていて
びっくりしたことを思い出しました。
次の渡韓への気持ちがふくらむばかり…。
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一気に選挙戦の中へ!ビョン・ソンヒョン監督「キングメーカー」
http://ayanohibi.exblog.jp/30076650/
2022-08-19T21:38:00+09:00
2022-08-19T21:38:16+09:00
2022-08-19T21:38:16+09:00
atougarashi
韓国の本、書店、美術、博物館、映画
ビョン・ソンヒョン監督の
「キングメーカー(原題:킹메이커)」を見てきました。
123分の上映時間はあっという間でした。
独裁政権打倒を目指す政治家キム・ウンボムと
彼に共鳴し、彼のために戦略を練るソ・チャンデ。
財力もない中、大きな力と戦うために
ソ・チャンデは手段を選ばない、時には詐欺のような戦略を練り
キム・ウンボムを押し上げていくのですが…。
事実に基づいて作られた作品で
すぐにこの政治家が金大中元大統領のことだと気付きます。
そしてソ・チャンデは金大中元大統領の選挙参謀であった
厳昌録(オム・チャンノク)氏のこと。
劇中で描かれるびっくりするような戦略も
現実にあったことだというから驚きます。
登場人物たちが抱く打倒独裁政権という思いと
それを取り巻く様々な思惑。
牽制、取引、裏切りが渦巻く中で
二人の主人公たちは光と影として
その存在感を濃くしていきます。
物語に勢いがあって、一気に1960年代の
熱い選挙戦の中に放り込まれたような気分でした。
昔の映像っぽく演出している部分があったり
登場人物の立場や感情を陰影で表現しているような照明が印象的でした。
時間の経過や場面の切り替えなどで
物語の勢いが止まらないように作られているのも気持ちよく
タイトルの出方もかっこよかったです。
物語もさることながら、美術がとても好みでした。
当時を忠実に再現というよりも、少しモダンな感じに
作っているように見えました。
ふたりが食事をする店や、事務所の内装などが
とてもよくてじっくり見たくなりました。
ハン・アルムさんという方が担当されていました。
他に携わった作品が気になります。
とにかく主人公二人とそれを取り巻く人たちの
「選挙戦」だけに集中して描かれていて
脇役登場人物のちょっとした小話みたいなものが
全くない、無駄を削ぎ落とした作品でした。
こういうの好きです。
数々のエピソードの真偽が謎のものもあるようですが
映画としてとても面白く、あっという間の二時間でした。
最後の方に1988年のソウルオリンピックの映像が少し映ります。
わたしもはっきり記憶があるオリンピックです。
そう考えると韓国の独裁政権が倒れ、民主化の道を歩み
現在に至るまでの変化の速さに驚かされます。
以前読んだ「金大中自叙伝」を
もう一度読み返したくなりました。
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イ・スンウォン監督の映画「三姉妹」で垣間見る韓国の社会
http://ayanohibi.exblog.jp/30025851/
2022-07-15T20:13:00+09:00
2022-07-15T20:17:25+09:00
2022-07-15T20:13:41+09:00
atougarashi
韓国の本、書店、美術、博物館、映画
※映画の内容にやや触れているので、これから見る方はご注意ください。
韓国の街に多いもの。
カフェ、坂、そして教会。
一体どのくらいあるのかわかりませんが
夜になると赤いネオンの十字架があちこちに見え
儒教の影響を強く受けた国なのに
キリスト教徒が多いことが不思議でした。
イ・スンウォン監督の「三姉妹(原題:세자매)」は
ソウルに暮らす三姉妹の物語で、次女が主人公です。
それぞれ家族を持ち暮らしていますが
やや気の弱そうな長女は離婚した夫の借金の返済と
冴えないミュージシャンに入れ込む反抗期の娘に悩むなか
自身の体にも異変が起きます。
次女は熱心に教会に通い、寄付もしっかりして
子供たちにも食事前のお祈りを徹底させるほど模範的信徒。
高級マンションにも引っ越したばかり。
ですが、ある時、夫の裏切りを知ってしまいます。
劇作家の三女は中学生の息子がいる優しい男性と結婚していますが
スランプのせいか酒浸りで、酔っ払っては暴れたり…。
義理の息子の携帯には「クレイジー女」で登録されるほど。
そしてもう一人、実家に残っている弟。
父の誕生日を祝うために久しぶりに集まることになりますが
幼い頃に心に刻まれてしまった傷や
それぞれの日々の中で積もっていった思いが剥き出しになります。
父親が絶対という中で育った三姉妹は
幼い頃に父の暴力に遭遇しています。
助けを求めて走った近所の店で「通報してほしい」と頼みますが
「なんてひどい子供だ!」「父親が逮捕されてもいいのか」と叱られる場面があり
いかに父が絶対的存在かを語っていました。
我慢を強いられて大人になって
大人になっても別の我慢を強いられて
こんなはずじゃなかったのに。
三姉妹の心にあるこの思いは一緒なのに
平気なふりをしてお互いを気にかける。
父親の誕生日の場面に向かうまでに
彼女たちが抱えているものが描かれていきます。
なかなか凄まじい話なのですが
登場人物たちの行動は別の誰かの行動と
どこか重なるものがあったり、伏線があり面白い。
姉妹たちの会話から浮かび上がる家族の構図。
弟の存在もそこで語られますが、なかなか登場しません。
誰かの傷を誰かがなぐさめたり、間違いに対して声を上げる。
最後、登場人物たちは長いトンネルを抜けた、抜けかけていると見ていいのでしょうか。
主人公である次女が気になりました。
長女や三女は娘や義理の息子との関係をなんとかしようと
その関係に切り込むような行動を起こし
弟もある行動をおこします。
が、次女は夫と関係修復する気は毛頭なさそうなのです。
夫の相手には警告を与え(暴力的に、しかも教会の中で)
そしてさらに夫を追い詰める。
夫は夫で許しを乞うつもりはなさそうだし
次女のこれからが心配…と映画を見終わっても気になるほどでした。
どうか穏やかな日常を送ってほしい…。
そしてこの作品、俳優さんたちの演技が凄くて
それに引っ張られるように見てしまうところがありました。
長女を演じのたキム・ソニョンさん。
ドラマ「彼女の私生活」で、ちょっと奇妙な美術館の館長を演じた方で
全然気づかなかった。どんな俳優さんかと調べて知りました。
「愛の不時着」にも出演されていたそうです。(まだ見てなくて…)
次女はムン・ソリさん。
韓国版「リトルフォレスト」でお母さんを演じていた方でした。
わたしは日本版も韓国版も「リトルフォレスト」大好きで
何度も見ていたのに、気づかなかった…。
「三姉妹」の共同プロデューサーでもあります。
そして圧倒的なインパクトの三女は
モデルとして活躍するチャン・ユンジュさん。
映画出演二作目だそうですが、すごかった。
元々の素晴らしいスタイルを隠して(でもよく見ると脚が細い)
酒浸りのだらしのない感じと、すごい言葉がバンバン出るセリフを
見事に演じられています。
どんな俳優さんかな、と検索をしてみたら
「VOGUE」での写真が出てきて「うわー!」です。
モデルとしての姿も素敵ですが
俳優としての活動、これからも見てみたいです。
そして儒教の教えが根強い韓国で
なぜキリスト教徒が多いのか。
パンフレットの中で映画評論家のチェ・ソンウクさんが
「儒教的父権社会とキリスト教の親和性が指摘できる」ことと
「先祖に仕えればうまくいく」という儒教の先祖崇拝が
「神に祈れば何でも叶えてくれる」といった教理と通じ合う点がある、とも
書いていらっしゃいました。
作品の中での次女の行動はまさにそれなのです。
以前同じ質問を韓国人の友だちにしたところ
「大勢で何かするというのが、国民性に合っているんじゃないか」と言っていました。
みんなで行うバザー、祈祷、聖歌隊。
街でよく見かけたデモや、活発なボランティア活動などを見ると
集団行動は日本人より得意なのではないか、と思いました。
「三姉妹」を通じて垣間見える韓国社会の一部。
ずっと気になっていた「韓国とキリスト教」のことに
少し触れられたような気がしました。
近年、韓国からはこういった生きづらさをテーマにした作品が
数多く紹介され、日本でも共感する人が増えています。
暴力、抑圧、差別、生きづらさ。
「三姉妹」に描かれた家父長制のようなものは
日本でもまだ見受けられるところもあります。
こういった負のバトンを未来に渡さないような
そんな世界になっていったらと思います。
それにしても、演技力とメイクなどのスタイリング力。
すごいです。
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白く熱い本。李良枝さんのエッセイ集「ことばの杖」
http://ayanohibi.exblog.jp/30011653/
2022-06-29T22:26:00+09:00
2022-06-29T22:26:32+09:00
2022-06-29T22:26:32+09:00
atougarashi
韓国の本、書店、美術、博物館、映画
李良枝(イ・ヤンジ)さんの「ことばの杖」は
ここ数日、出かける時も持ち歩いて読んだ本でした。
1989年に「由煕」という作品で芥川賞を受賞し
1992年に病気で亡くなった李良枝さんのエッセイ集で
大庭みな子さんとの対談などもおさめられています。
「由煕」という作品を読んだのはわりと最近のことでした。
図書館で借りて読んだのですが、本を読むときの悪い癖で
つい先を急いでしまうところがあるのです。
ところが「由煕」はその加速度をグッと抑え込まれるような
一文字ずつをじっくり追わなければ、という気持ちで
いっぱいになりながら読みました。
李良枝さんのことをもっと知りたい、と思った時に
このエッセイ集が出版されることを知りました。
そしてエッセイを読み、やはりあの本をもう一度読みたい、と
結局「由煕」が収録されている文庫を購入しました。
李良枝さんの人生は激しく、エッセイを読んでいると
彼女自身から発せられる、怒り、迷い、悲しみ、光と影
そんなものがひとつに絡まり合いながら
言葉というエネルギーになってぶつかってくるのを感じました。
それは決して不快なのではなく、ただ圧倒され
何かを突きつけられるような感覚です。
そしてただただ、今この世にいないことが悔やまれました。
多感という言葉ではおさまりきらない少女時代。
自身の生い立ちに対する葛藤に苦しみ
息苦しい環境の中で、悩み傷つきもがいたこと。
やがて韓国語、伽耶琴、韓国舞踊を学び
小説を書くようになる。
そんなことをエッセイを読んで知りました。
そしてあの物語たちはそういった背景をはらんでいたのか、と。
改めて小説を読み返すと、なるほど、と思うところが多くありました。
エッセイの巻末には妹である、李栄(イ・ヨン)さんによって
「姉・李良枝」の姿が語られています。
家族が語る姿だからこそ、作家をより立体的に感じられて
わたしはこの李栄さんの文もとても好きでした。
ただ最後の部分を電車で読んだことを悔やみました。
李良枝さんが突然の病魔に倒れたことや
家族の悲しみと苦しみが綴られており
上を向いていないと涙が出てしまうのです。
エッセイを読んだ後、もう一度、作品を読み返す。
そしてまたエッセイを読み返す。
そんな繰り返しをしそうな気がします。
「ことばの杖」は白い表紙に薄い緑で
木蓮(だと思うのですが)が描かれています。
これもとても意味のある、素敵な装丁だと思いました。
ひとりの女性の激しい人生が、この白い表紙に包まれている。
触ると熱いのではないか、そんな気にさえなる本でした。
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薬箱みたいな本。キム・ウンジュさんの「私という植物を育てることに決めた」
http://ayanohibi.exblog.jp/29957296/
2022-05-24T17:42:00+09:00
2022-05-24T17:42:43+09:00
2022-05-24T17:42:43+09:00
atougarashi
韓国の本、書店、美術、博物館、映画
自己啓発系の本はどうも苦手で
手に取ることはほとんどありませんでした。
でも先日ある出版社から
「もしよかったら本を受け取ってほしい」というメッセージを頂き
その内容にちょっと惹かれるところがあり
ありがたく頂くことにしました。
こういうお申し出を頂いたのも初めてのことだし
読んでいる人もあまりいないようなブログに
わざわざ連絡をくださったことも嬉しく
「SNSに感想を書かなくていいです」と添えられた言葉も
わたしをとても気楽にさせてくれました。
キム・ウンジュさんの
「私という植物を育てることに決めた」という本です。
イラストレーターのウォーリー・ラインズさんの絵が
ふんだんに使われています。優しい色使いの絵本みたいです。
自分を植物に見立て、セルフガーデニングというやり方で
自身を大切にしていこう、というのがこの本のテーマです。
韓国ってわりとこのジャンルの本が多く読まれている気がします。
「自分を大事にする」「自分を愛する」といったテーマの本を
教保文庫でもよく見かけました。
ここ数年話題となることが多いフェミニズム関連の本とも
根底部分でつながっているのかもしれません。
水をやり光をあて風に吹かれる。
そんな当たり前のことが、急にうまくできなくなったり
なんとなくやり方が見えなくなってしまった時の心に
優しく問いかける本でした。
ページをめくっていくと、書き込みができるところがあったり
巻末の目次から、今の気持ちにしっくりくるテーマを見つけて
そこから読むこともできる作りになっています。
この本を読んだとき
初めてパニック発作を起こした時のことを思い出しました。
それまで普通にできていたこと、受け入れてきたことが
突然「もう無理」となった日。
あの日があったから、この本を読んでみようと思ったのだろうと思います。
しいて言えば、今のわたしは
新たにセルフガーデニングを始めたところ、という感じなのです。
結局、自分の悩みや痛みや苦しみって
案外気づいていなかったり、平気で無視していたりする。
気づいていたとしても、それは自分でどうにかする以外
そこから脱することはできないことを
わたしたちはもう嫌というほど知っています。
でももし凝り固まった思考に新たな風や光や水が流れてくれたら
解決まで行かずとも、きっかけはみつかるかもしない。
この本もそういったきっかけをくれる鍵のひとつのように思いました。
言葉の選び方やイラストに温かみがあって
押し付けがましくないこともよかったし
何より最後のページにこの本に関わった方々のお名前が
ずらりと書かれていることが、大事に作られた証だなと思いました。
前に立って「こっちだよ!」と引っ張る本ではなく
隣で一緒に伴走し、時には背中を支えてくれるような本でした。
自己啓発っていう言葉がちょっとしっくりこなくて
絆創膏とか包帯とか軟膏みたいな存在。
本棚よりも薬箱がぴったりかもしれません。
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中央アジアの風景とその歴史を背景に。ユン・フミョンさんの「白い船」
http://ayanohibi.exblog.jp/29938465/
2022-05-05T17:23:00+09:00
2022-05-05T17:23:41+09:00
2022-05-05T17:23:41+09:00
atougarashi
韓国の本、書店、美術、博物館、映画
日本語でも韓国語でも読める
きむふなセレクションは、韓国語学習者には
ぴったりのシリーズなのですが
何よりもこのシリーズで取り上げられる小説は
どれもとてもいい内容なので
勉強している、していない関係なく楽しめる
とても魅力的なシリーズです。
SNSで知ったシリーズ16作目は
ユン・フミョンさんの「白い船」という物語。
ある一編の文章をきっかけに中央アジアへ旅立つ主人公。
旧ソ連に移住した朝鮮民族の歴史を背景に
民族、言語、アイデンティティ…さまざまな思いがよぎります。
中央アジアの風景が浮かんでくるような描写が印象的で
ロードムービーのような短編でした。
わたしがこの物語を手に取った理由は
梨大の語学堂の5級のクラスを思い出したからです。
そのクラスにはロシア、ウズベキスタン
キルギスタン、カザフスタン出身の学生がいました。
彼女たちの母語はロシア語やそれぞれの国の言語なのですが
ルーツは韓国にあり、名前も韓国名でぱっと見ただけでは韓国人だと
思う人がほとんどだと思います。
わたしはそれまで中央アジアに朝鮮民族が移住した歴史を知らなくて
とても不思議に思い調べてみてその事実を知りました。
自分のルーツとは別の国に生まれ育つという人は
世界にどのくらいいるのだろうとふと思うことがあります。
留学中、そういった背景を持つクラスメイトは少なくなくて
彼らにしかわからない苦労もあるようでした。
「白い船」という本を知ったとき
そんなことが思い出され、思わず手にとったのですが
主人公が旅立つきっかけとなる文章もとてもよくて
どこか神秘的なイメージのある中央アジアの風景と相まって
ぐいぐいと引き込まれる物語でした。
翻訳された東峰直子さんの解説がついていて
強制移住の背景がわかりやすく書かれているのも理解の助けになりました。
きむふなセレクションのこのシリーズ
わりと読んでいる方なのですが
「白い船」はその中でもかなり好きな作品となりました。
著者のユン・フミョンさんの作品も初めて読んだのですが
他の作品も気になりました。
いつか中央アジアの風景も見てみたいな。
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読み終わりたくない本。ペク・スリンさんの短編集「夏のヴィラ」
http://ayanohibi.exblog.jp/29916095/
2022-04-12T18:44:00+09:00
2022-04-12T18:44:00+09:00
2022-04-12T18:44:00+09:00
atougarashi
韓国の本、書店、美術、博物館、映画
ペク・スリンさんは新刊が待ち遠しい作家のひとりです。
「惨憺たる光」を読んで以来、大好きな作家になりました。
今回も新刊が出るという情報をSNSで見て以来
ずっと楽しみに待っていました。
「夏のヴィラ(原題:여름의 빌라)」は
人と人の距離や別れが、外国や韓国を舞台に描かれた短編集です。
8つの物語が収められ、どの物語も最初の数行を読むと
もうその世界に引き込まれている。
上質なものを集めて作られたお菓子や
何十年と着続けられるコート、ペク・スリンさんの物語は
そういうものを連想させられます。
どの物語もそれぞれ素敵なのですが
「時間の軌跡」「ブラウンシュガー・キャンディ」
「ほんのわずかな合間に」が特に印象的でした。
読み終わった後の心地よい感覚。
これはカン・バンファさんの翻訳によるところも大きいのかもしれません。
「惨憺たる光」を読んだ時、初めて翻訳の凄さというものを感じました。
翻訳されたものを読んでいると、時々、原文と自分の間に
薄い膜のようなものを感じることがあります。
文章がなかなかすっと入ってこなくて
「翻訳されたものを読んでいる」という感覚がどうしても抜けない。
そんな薄い膜を全く感じなかったのが「惨憺たる光」でした。
「夏のヴィラ」もやはりそんな風に
物語にすっと入り込めて、その世界を堪能できました。
こういう読書はすごく気持ちがいいです。
装丁も淡い色合いが美しく
各章のタイトルの書体も柔らかさを感じさせるもので
この本がたくさん愛されて作られたことがわかります。
(さすが書肆侃々房さんだ!)
人と人の距離を引き離すような出来事が多い世界で
息苦しさや悲しみに沈んでしまいそうな心に
手を差し伸べてくれる。
ペク・スリンさんの小説はそんな存在だと思います。
とても好きな作品でした。
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祝、復刊!「中くらいの友だち Vol.10」待ってた…
http://ayanohibi.exblog.jp/29881059/
2022-03-28T18:23:00+09:00
2022-03-28T18:23:12+09:00
2022-03-28T18:23:12+09:00
atougarashi
韓国の本、書店、美術、博物館、映画
久しぶりに神保町へ行ってきました。
韓国書籍の専門店「チェッコリ」さんが
店舗運営を再開すると聞いて
ちょうど欲しい本があったので出かけてきました。
今回の目的は
「中くらいの友だちVol.10」と「좋은 생각」の4月号。
休刊をへて発行された「中くらいの友だち」のVol.10。
休刊と聞いた時は「うわー…(放心)」という感じでしたが
思ったよりもはるかに早い復活でとても嬉しいです。
ブログで何度も紹介しましたが
わたしにとってこの本はとても大事な存在です。
誰かが韓国を語る時、しっくりくる温度って
なかなかないと感じています。
最近ありがちな「韓国っぽ」(そもそもこの言葉が好きになれない…)も
韓国と聞いてやたらと牙を剥くような反応も
韓国語学習関連で時々見られる妙に突っ張った感じも
本当に心地悪いと感じます。
この本はいつも平熱。
歩くスピードや歩幅や目線の高さがちょうど良い。
一緒に歩いている感覚にさせてくれて
でも知らなかったことを届けてくれる。
読んでいて、ただただ静かに「韓国に行きたい」という気分になるのです。
こういう本を待ってた!と読むたびに思っていて
だからこそ、韓国が好きという人には是非手にとってほしいなと思います。
今回の内容もすごく面白かったです。
いつも視点が面白く、文章がわかりやすくて
言葉が澄んでいる大瀬留美子さんの「碑が教えてくれるもの」や
弘大のカフェ「雨乃日珈琲店」を経営する清水博之さんの
「タワー探求生活」の訪問先は大邱。
読んでいたら西門市場と猫の写真が出ていたのですが
このスイカの絵が描かれたシャッター、わたしも写真撮った!と思わず嬉しくなりました。
コロナの中でのカフェ営業の日記も書かれていて
短い文からも生活の様子がリアルに伝わってきて
これはできればずっと読み続けたい…と思いました。
韓国で自閉症の息子さんを育てる平野有子さんの文も素敵だし
主宰の伊東順子さんのお話も最高です。
笑い事じゃないけれど、思わず笑ってしまいました…。
ゆっくりのペースでも、11号、15号…と続いてほしいです。
「좋은 생각」は韓国語を勉強する中で
手にとったことがある人も多いと思います。
わたしは韓国旅行に行くと、帰りの空港の本屋さんで
時々購入していました。(金浦空港のあの小さな本屋さん…もうないのかな)
学校の先生にも勧めれたことがあります。
たくさんの人から寄せられたエッセイが掲載されていて
一つの文がそこまで長くないので、勉強にちょうどいいです。
欲しかった本を無事に購入できてよかったし
何よりも「中くらいの友だち」にまた会えたことが嬉しいです。
今回の表紙は美しい黄色に四角い餅型がデザインされています。
表紙に書かれた「韓国を語らい・味わい・楽しむ雑誌」の言葉に
改めて頷いてしまう、そんな本です。
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