濃い緑の匂いと。
東京大学駒場キャンパス教養学部900番教室には
パイプオルガンがあります。
900番教室といっても、ひとつの独立した建物で講堂になっています。
東大紛争時には三島由紀夫と全共闘学生がちが
討論した場所でもあるそうです。
ここに1977年、オルガンが設置されました。
オルガンを設置したいと考える東大教官たちが
吉祥寺の教会にあったオルガンが解体されると聞き
安価で譲ってもらおうとしたそうです。
安いとはいえお金がなく、東大卒業生の森稔氏の父
森泰吉郎氏(森ビル初代社長)にお願いをして援助してもらったそうです。
ところが譲り受けたオルガンは再生が難しいほどの状態で
結局は新品を作り直すような形になり
桁違いの出費となってしまったそうです。
そんなオルガンの演奏会が時々行われているそうで
火曜日の夜に聞きに行ってきました。
講堂に入ると正面にスクリーンが置かれていました。
オルガンは入り口の真上にあるので
演奏している姿をスクリーンに映し
背中で音を聞くような感じです。
高い天井なので教会にいるかのような感覚で
オルガンの演奏を聴きました。
特にモーツァルトの曲が素敵でした。
まるで鳥がさえずるかのようなメロディが
天井から降ってくると、講堂の中がとても幸せな空気に
包まれていきました。
パイプオルガンの曲というと、荘厳で宗教的な印象が
とても強かったのですが、この曲はどこかかわいらしさと
軽やかさがあり、新鮮に聴こえました。
最後の即興はパイプオルガンを演奏した
ジルヴィウス・フォン・ケッセル氏の
とてもユーモアに溢れたもので
東大の応援歌「ただ一つ」(東大には校歌がなく、この応援歌がスポーツの試合時に演奏されます)が
演奏されました。
重厚感と気高い雰囲気のアレンジに
お客さんたちからも笑顔がこぼれていました。
木々が鬱蒼とした夜の駒場キャンパスは
ここのところの雨で緑の匂いも濃く
そんな中で聞くパイプオルガンの音色は
とても特別な音のように聞こえました。
演奏が終わり、そんな森の中へ一歩出ると
一瞬どこにいるのかわからなくなるような感じがしました。
次回の演奏会は11月だそうです。
初冬の空気の中で聞くパイプオルガンの音が
どんなものなのか今から楽しみです。